東京ルール関係の話は、retour&Retourと
東京ルール:「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例」
一般的には「敷金の返却をめぐる条例」として知られていますが、ここには随分と誤解があって、その周辺でいろんな動きが見え始めています。
現実敷金を返却しない等の悪質な賃貸管理は、この条例で減少する事は間違いありませんから、それはいいとこなんですがそこにも「明と暗がある」って事です。
宅地建物取引業免許の許認可は東京都(地元業者である場合には地方自治体が、複数県に事業所が分散している場合には国土交通省の管轄)になるので、この都条例は「不動産免許の許認可権者による決定」ですから、不動産業者にとって都条例は『法律そのもの』を意味します。
とにもかくにも現在敷金の返却で心配する事は一切ありません。悪質な業者に遭遇してしまった場合には都に相談窓口があります(『賃貸住宅ホットライン』午前9時縲恁゚後5時TEL03-5320-4958)。
平成16年10月1日の施行以来、賃貸住居の契約時には「重要事項説明」とともにこの「東京ルールの説明」が義務付けられ、国土交通省からはその雛型も公開されています。
実際のところ契約書とは特約契約であって、法的文書である東京ルールの趣旨に沿わない項目は署名捺印しても無効であり、実質的には東京ルールが上位の存在なので契約書自体形骸化している側面もあります。
(明文法としての契約には「公正証書契約」になりますが、一般的ではありません)
それほどの拘束力のある東京ルールとはどんなものか?
国土交通省の雛型から一部引用して説明してみようと思う。
■一般原則
(1)経年変化及び通常の使用による住宅の損耗等の復旧については、賃貸人の費用負担で行い、賃借人はその費用を負担しないとされています。
(2)賃借人の故意・過失や通常の使用方法に反する使用など賃借人の責めに帰すべき事由による住宅の損耗等があれば、賃借人は、その復旧費用を負担するとされています。
■例外としての特約
賃貸人と賃借人は、両者の合意により、退去時における住宅の損耗等の復旧について、上記1の一般原則とは異なる特約を定めることができるとされています。
ただし、特約はすべて認められる訳ではなく、内容によっては無効とされることがあります。
@特約の必要性に加え暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること、
A賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること、
B賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること。
※特約として認められているのは一般に「専門業者によるルームクリーニング」と「鍵交換費用(反対に「鍵の交換不要の特約」を結んで、鍵を交換費用を減額した実例もある)」。
※東京ルールに施行に際しては、不動産各社に研修が行われ現在契約時に必ず説明を受ける事になっています。
まず、この条例成立についての背景だけれど、賃貸関係の問題によるいくつかの裁判の結果を踏まえて、紛争を防止する上でこれを条例として整備しようというもの。
ここにもイロイロと問題があって、
そもそも慣習法国家であった日本が、昨今の新自由主義化(アメリカ的市場経済)の流れの中で明文法化していきている部分が欠かせない。
「手付倍返し(賃貸においては平成4年6月から禁止)」とか、習慣や文化によって取引されてきた不動産業界において、これを明文法的に透明性にあるものにしていこうという動き自体は時代の流れでもあり合理的な事だと思うけれども、敷金の返却に関しても真面目にやってきた業者や家主さんほどこれを重く受け止めた。
実際家主さんや不動産業者こそ紛争は「避けたい」と思っているからだ。
都条例の誤解から(明解に入居者による汚損破損については入居者負担と明記されているのに)「敷金は全額返却するのが当たり前だ」という紛争に備えて、「内容のいい床材の使用を控えたり」「女性専用」や「入居者審査を厳しくする方向」等が見え始めている。
つまり、汚損破損をめぐる請求で紛争になるのを嫌って、最初から「汚損破損の発生リスクの少ない入居者に限定したい」「汚損破損があっても安いリスクで補修がきくパーツを使用したい」ってアイデアによるものだ。
又、経年変化による壁紙の全面張り替えは請求できないので、汚損破損としてはグレーゾーン(「通常の喫煙」だと個人的主観で大きな差がある)になる『喫煙』による汚れを最初から考えなくてもよくするために「禁煙」で募集する例も増えている。
何故って、経年変化についての立証責任なんて事になると、入居前の部屋のビデオ撮ったり細かい検査表みたいなものを用意する家主さんは滅多にいないので、裁判なんかになると一方的に立場は不利になる。正当な理由があったとしても、まさか裁判に備えて証拠固めして部屋を貸すなんナンセンスだし、大変な手続きが必要になる。
だから、裁判になる事自体「賃貸管理上の失敗」であって(極端に言うと「泣寝入り」も考えなくちゃいけない)、元々敷金は基本的に全額返却の方針の家主さんでも、審査を厳しくする等考えなくちゃいけなくなった。
昨今は「入居前のお部屋のチェックシート」なんて方式を採用している業者が増えているけれども、入居前の汚損破損を入居者に調べてもらって書類として保管したいって意図もある。
汚損破損が最も発生しやすい「ペット可」が予想以上に増えない事情も同じ(通常敷金の一ヶ月が敷引きとなる敷金3ヶ月での契約になるが、ペットの汚損破損の範囲を予想できない)、本来家主さんも管理会社も「円満に退出」を望んでいるので、敷金から請求しなくてはいけない汚損破損が起きない方が望ましいって思いには違いが無い。
かといって、現実「えーお部屋は敷金で綺麗にしますから“大丈夫ですよ”」なんて、返却すべき敷金を一切返却してこなかった業者がいたのは事実であって(悪質不動産会社についてはネットの苦情掲示板なんかをググッてもらえるとわかりますよ)、これを厳しく指導できてこなかった業界や都には重大な責任があったので、東京ルールの施行を歓迎した管理会社も多かったのも事実。
※ここにも背景があって、不動産管理会社には「家主営業」という業務もあって、「当社に管理させてもらえれば、敷金全額で綺麗にしますから」なんて営業トークでこれまで大事に管理してきたアパートの媒介契約を新興駅前営業系の店舗に取られてしまうって事もあったのは事実で、悪質な「家主営業」を問題視していた業者は東京ルール施行を歓迎した。
そんな「家主営業」が「敷金を返さない」って紛争原因のひとつでもあったと思われる。
<つづく>
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東京ルールの周辺事態(1)
2006年08月01日
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