以前retour&Retourで取り上げた耐震偽装関連の続編となるのだけれど、経済学的なファンダメンタルから「分譲か賃貸か」を考えてみたい。
件の耐震偽装事件(特にその後判明した多数の偽装事例)からハッキリしたのは新築分譲マンションとはその時の国家経済を反映するももので「限りなく耐久消費財に近いものだ」という部分になる。
そもそも区分所有である分譲マンションは所有権といっても現実的な敷地は僅かであって”不動産と呼ばれるリスクヘッジ率は元々低い商品”で、その内容評価は上物の製品としてのクオリティーであるべきで、土地付き一戸建てと同等の認識をもってはいけない。
有数の耐久消費財の代表と言えば”車”になる。価格的バランスから見ると分譲マンションの10分の1とか15分の1とかのスケールになるけれど「新築分譲マンションって何?」を考える上でもっともわかりやすいモデルである。
確かに車を買い慣れてる(新車に乗り換える)人にとって、中古車市場(下取り価格)は大事は大事だろうけれども、資産価値として極端に神経質になることは無い。現実資産価値に敏感だと車の内容維持に相当気を使わないといけないし、頻繁に乗り換えする人ほど「相場が不安定になる前に買い換えてしまう」のであって、一生ものの車なんて事になれば反対に資産価値より「心底気に入った車か?」という部分が大事になる、
同時に一生ものの車となれば、メンテナンス含めて随分と研究もするし当然試乗もする。車関係雑誌の『試乗レポート』もそりゃかなり読む事になる、
まさか「メーカー作成のモックアップと開発スペック仕様書だけ」でそれを購入する人はいないだろう(それがあるのは「フェラーリ」とかのブランドだけ)。
新築分譲マンションには「試住レポート」なんてのは無い。
ところが、一戸建ての設計メーカーだと必ず「○○さんのお宅拝見」な居住者レポートが広告として紹介されていて○○シリーズなる商品概要説明の一部となっている。
本来分譲マンションなんてのはそうでなくちゃいけない。
実際某高級マンションに分譲賃貸と暮らしてから、同棟の別室を購入って話もある。
昔々の分譲マンションブーム時代の名残なのか「抽選で」とか「契約の申込が殺到」なんてイメージがまだ残っているのかも知れないけれども、業界的には明らかにマンション市場は「供給過剰傾向」にあって、デベロッパーが本気になれば現在売り出し中のマンション価格を下落させる事は可能で(彼らの再三もあるから好きで市場を下落させるなんてことはあり得ないけれど)、最初からリスク商品になっている。
「1棟丸ごと所有」すれば随分とリスクをヘッジできるけれど、それは投資向けの話。
購入リスクってものを、個人レベル(ミクロ)で考えてみたらどうなるんだろう?
マンションの資産価値って部分ではなく、個人の所得水準から見た”リスク管理”って見方をするとずっとわかりやすい。
簡単な話「所得水準なんぼの人は、いくらぐらい借金してもいいものか」を考えればいい。そのローンの金額で『金塊」を買うとする、いくらぐらいの金塊を買うだろうか?
つまり購入リスクをミクロで判断すると、30ん年ローンとか平均年収600万の日本のサラリーマンが3000万以上のマンションを住居として購入する事はその時点でリスク管理上問題じゃないのだろうか。
今度は”住宅ローン”って金融システムそのものをマクロ経済で考えてみよう、
国民の税金で救済した大銀行のドル箱のひとつが”住宅ローン”だ。「その金をまた銀行が国民に貸して空前の利益」なんかおかしくないか?
しかも、現在の不動産相場を買い支えているのも、金融サイドからのマネーサプライによっているのであって・・・
つまり「高いって資産価値を担保しているのも銀行、高額の融資をして高いリスク商品を購入させているのも銀行」需要と供給の両方のプレーヤーになっているので、全体として市場が歪んでしまう。
バブルの時ほどではないが、現在の状況は不動産市場がが経済的な生産性を正確に反映しているとは言い難い。
再びミクロに話を戻すなら、新築分譲マンションの購入って「所得水準の中での余裕のある範囲で」がベストに思う。それこそ「賃貸で賃料を支払うより得だ」と考えられる水準は「今の賃貸住居より低水準の価格の安いものから選ぶべき」なのじゃないか?
何故なら、転職の自由だって今や大きな都市生活者の利益だし今の所得水準が安定的に担保されているのでもない、家族構成にも変動がある。その中で確実に所有権として必要な商品ではないものに20年以上のローンを組むのはリスクが高すぎる、
賃貸であれば事情によって何時でも住み替えが可能であるため、短期的にリスク管理ができる(場合によっては賃料3分の2の住居を探して貯金する等)。リスク管理に余裕がある分高い賃料の部屋に居住しても固定的ではない。
「今3000万を使う、今15万を使う」お金を使うって世界から見れば、これ全然キャラが違う、そりゃ15万をどうするのか考える方がよほど気楽だ。
売買を投資向けの運用で考える場合には「利回りによって10年単位で資金の回収が可能か」とか考える。それは購入時のリスク管理から見ても同様だろう。
賃貸であれば、今の所得水準から自分のライフスタイルに合わせて自由に部屋を探せばいいのだけれども、売買の場合には「如何に内容を担保しつつ”安い商品を購入するのか”」がより大事になるのであって、選択の内容や在り方が根本的に違うのだと考えた方がいい。
同じ所得であれば「賃貸を選択した人は分譲を購入した人より内容が上の住居に暮らす」という構造の方が自然なのだ。
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分譲か賃貸か「俯瞰で見る」
2006年10月24日
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